セリオレポート

<対象者> 知財、企業技術者

 

 

A.初めに


特許網構築、重要な発明について周辺発明を十分に出願する集中出願の際は、

1.最初の出願(以下、「第1出願」と記載します。)から1年まで
:外国出願期限(正確には第1出願の優先権を主張して外国出願を)、国内優先権主張出願期限

2.最初の出願の公開前

の2つが重要な期限となります。

 次の各期間についての実施したい事項と留意事項を記載します。

 

 

B.出願時期毎の説明


1.第1出願の出願日~その出願日から1年以内

 第1出願の内容を充実させた国内優先権主張出願、外国出願(PCTや各国への直接出願等優先権を主張して行うもの)を行うための期間です。

 この期間に、実施したい事項を次に挙げます。

 

(1)先行技術調査:出願前に実施していなかった場合又は実施していても不十分だった場合に行います。

 実施目的:特許性の確認。特許性ある他社への影響力あるクレーム作成。

 特許網構築の際に、先行技術の把握は必須です。他社からの出願が予想される場合など、状況に応じて、先行技術の把握を継続することも考慮します。

 

(2)国内優先権主張出願、外国出願の準備

1)クレーム再検討・再構築

・不要な限定を除く:発明の経緯などから、クレームには不要な限定が入りやすいです。クレームの各構成要件の要否を、一度ゼロベースで検討することをお勧めします。(複数人でのディスカッション、第1出願時に関与しなかった人による検討など工夫をするとよいです。)

・特許性を上げるための従属クレーム追加、他のカテゴリーのクレーム追加(権利行使、自己防衛等目的)等を検討します。

2)実施例・比較例追加:実験は場合により時間がかかる(外注、実験装置混雑、実施に長期間必要等)ため、計画的に実施します。予定外の結果や実験失敗により、再実験が必要となる可能性があるため、余裕をもって行うことを勧めます。

実施例等の追加は、主に次の観点で行います。

・クレーム範囲に対して実施例が少ない場合のサポート要件違反を回避するため。

・製法クレームで行った出願に、物質クレームを追加する等、一層強い出願とするために必要な物性値・パラメーター等を得る。

・公知文献対する新規性、進歩性を示す比較データを得る(公知文献に対する比較データは、出願後の実施、特許庁への提出も可能です。ただし、出願後に予想外のデータが判明しても困るため、早期実施が好ましい。)。

3)明細書強化:主に次の観点から行います。

・特許性向上のための理論、説明等の追加

・内容豊富化:他社の選択特許取得阻止のため

・理論的な可能な応用、他用途の書き込み:権利範囲を狭めないため。

注意:1)~3)の追加事項は、追加した出願(国内優先権主張出願、外国出願)の出願日から半年で公開になります。比較的早期に公開になるため、さらに周辺出願をする場合は、後期2の時期までに出願する努力が重要です。

 

(3)周辺出願

 第1出願1件で出願できない周辺技術がある場合、または、複数の類似特許権利化を図りたい場合など、2件目以降の追加出願をします。他社の実施を防ぐためには、複数件の出願が望まれます。

 改良発明、用途発明等、計画的な実施が重要です。

 この周辺出願は、後述するように、費用対効果の観点から、

 ア.日本出願は複数出願のままそれぞれ権利化をするが、

 イ.外国出願には日本出願複数件の内容を一件に集めて出願する(外国出願としてPCT出願をする場合は、願書で指定国から日本を除くことが必要)

とすることもよく行われます。

注意:同じ分野で複数件出願する場合は、拡大先願(特29条の2)による拒絶を避けるため、第1出願と同一出願人とすることが好ましいです。拡大先願は、後願の出願時の先の出願(第1出願等)と後願の出願人とが同一であれば拒絶されないため、後願の出願時のみ特許庁への手続き名義上のみ出願人を揃えることも、実際の出願人、名前を借りる出願人の同意が得られれば可能です。(実務上は、双方の出願の公開後、特に審査請求を行う際に、本来の出願人に戻すことが多い。)

 

2.第1出願の出願後1年~出願公開前

 第1出願が公開される前であれば、第1出願からの新規性・進歩性による拒絶を避けられるため、重要な発明の場合、公開前に周辺出願をすることを勧めます。出願人は、上記1(3)の注意と同様、同一出願人とすることを勧めます。

(付言すると、この期間、第1出願の発明を外国出願することも、パリ条約の優先権を主張しなければ可能です。1年経過後に発明の価値に気づいて、又は、発明の重要性が高くなり、慌てて外国出願をするケースです。)

 

(1)出願期限:第1出願の公開前

 出願の公開は、第1出願が優先権主張を伴う場合は優先権主張日から1年6月経過後、優先権主張を伴わない場合は実際の出願日から1年6月経過後にされます。日本の特許公開公報発行は原則木曜日ですが、他の曜日に発行される場合もあります。公報発行日の変更は特許庁HPにて確認できます。

 特許庁の公開公報発行予定日のギリギリ頑張りたい場合は、出願人又はその出願の代理人から特許庁へ電話にて問い合わせて確認します。

「期限についての注意」

1)第1出願が早期に特許成立させたり、早期公開の請求を行ったりしていれば、公開は1年6月より早くなります。逆に、第1出願をもとに国内優先権主張出願をした場合、公開日は1年6月より、1月程度遅くなります。

2)外国出願(PCT、各国への直接出願等)をしていれば、外国出願の公開日も確認が必要です。特にPCTは1年6月経過後の最初の木曜日が公開予定日で、経験的に公開は日本より早いです。PCTの公開予定日は次のシステムで計算でき、正確に知りたい場合はWIPO事務局へ確認可能です。

(PCT期間計算システム:https://www.wipo.int/pct/ja/calculator/pct-calculator.html

3)種々の事情により、公開日を明確にできない場合は、通常の出願(早期公開請求と早期の成立など特別な場合は除く意味)では、第1出願の出願日から1年6月後の日を期限として、周辺出願を終了させます。

 

(2)出願国に関する注意

 日本出願では問題が起きませんが、第1出願とこの公開前に出す出願両方を中国、EPのような絶対新規性を必要とする国に出願する場合は、同一出願人でも公開前の第1出願の明細書記載事項によって、後の出願が拒絶される可能性があります。なお、EPは、先の出願の記載等について「除くクレーム」を後願に使用できるため、中国よりは比較的対応が可能です。

 米国では似た例として、出願時に非公開の先願に基づいて、自明型ダブルパテントによる拒絶理由を受けることがありますが、先願、後願ともに同じ出願人であれば、最終手段として、ターミナルディスクレーマー(権利期間を先願にそろえるころ)により拒絶を回避できるため、比較的問題は少ないです。

 

3.第1出願の公開以降

 第1出願が公開となりますが、公開となる自社出願が少ない間に、継続的に関連出願を行うことを勧めます。

 

 

以上

(記:松尾 由紀子)