深堀研究

 先の第2話では、光学式ディスクのフォーカスサーボについて触れたが、今回は、対物レンズで絞られたレーザ光をディスクの信号面に焦点合わせした読取りレーザスポットで、スパイラル(螺旋)状に音楽情報がピット(凹凸)として形成されたトラックを精確にスキャンするトラッキングサーボについて書きたい。

 トラッキングサーボは、読取りレーザスポットのトラックに対するズレ(トラッキングエラー)を検出し、このエラー信号をガルバノ・ミラーまたは対物レンズ駆動用コイルに供給して、トラックと直行する方向にレーザスポットを振り、常にトラックをスキャンするように維持制御する技術である。トラッキングエラーを検出する方法については、1972年にフリップス社が開発・発表した光学式ビデオディスクシステムに遡ることができる。ここで開発されたのが3スポット方式トラッキングエラー検出である。特公昭53-13123号(フリップス社;優先権出願日1972年5月11日、特許第936834号)公報に示されている。

 この検出は、下図の様に、読取りビームの往路中に位相回折格子(42)を配し、ディスク(1)の信号面上に0次回折光(読取りレーザスポット)(A)が読取りトラック(3)上に、+1次回折光(B1)が読取りトラック(3)の右半分、-1次回折光(B2)がトラック(3)の左半分に結像する配置関係に置く。読取りビームの復路中に、±1次(B1,B2)の戻り回折光を夫々受光する光検出器(46,47)と読取りレーザスポット(A)の戻り回折光を受光する光検出器(46a)を配する。

特公昭53-13123号

 2つの光検出器(46,47)の出力差が、トラッキングエラー量を示すので、この出力差(エラー信号)をガルバノ・ミラー(49)揺動用の磁気回路に供給することによって、ミラーを矢印(50)方向に微回転させ、読取りレーザスポットAがトラックを精確に追跡する。読取りレーザスポットAの戻り光を受光する光検出器(46a)から、記録された情報の再生信号を得ることができる。

 この特許発明は、トラッキング検出に2つのビームスポットを用い、2つの光検出器の差動出力として、トラッキングエラー信号を得るので、個々のディスクに起因する戻り光量のバラツキなどの影響を受けない利点を有する。当初のビデオディスクプレーヤやCDプレーヤなどの光学式プレーヤのトラッキングサーボの核心技術として広く用いられた。前号で揚げたフォーカスサーボの核心技術であるアスティグマ(非点収差)方式フォーカスエラー検出同様に大変素晴らしい技術である。これ等の技術は後からみれば、当たり前の技術のようにみえしまう。しかし、ここが特許的には、大事なポイントである。このように創生期の製品開発の最中になされたアイデアは云うまでもなく、既存製品の開発中になされたアイデアでも、後になってみれば当たり前と思える、所謂、“コロンブスの卵的な発明”こそが、立派な発明(誰もが実施したい実用的な価値のある発明)と言える。 このことを一人々々の技術者が自覚し、自身が関わった商品について創造したアイデアについて、既存技術との相違点の観点から注意深く観察し、取り溢しのない網羅的な特許出願を行うことによって、初めて強烈な特許網が形成でき、企業が市場競争、特許戦争に勝つための必要条件を手に入れることできる。もちろん、私たち企業または特許事務所で発明発掘に係わる者はなお更のこと、肝に銘じて置くべきことであろう。

(記:吉田敏男)